2.2.8 整数係数多項式

ここまでは主に体( $ \mathbb{Q},\mathbb{R},\mathbb{C}$)係数多項式を考えてきましたが、最後に整数係数多項式を考えます。整数係数多項式を考える上で基本となるのはガウスの補題です。ガウスの補題を用いることにより、 $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$既約であれば、 $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$上も既約であることが示されます。

整数係数多項式環 $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$においても、定義2.2.5により正則元や既約多項式が定義できます。しかし、体係数多項式の場合と異なり、正則元は定数多項式とは一致しません。

命題 2.2.21
$ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の正則元は$ \pm 1$のみである。($ \pm 1$は定数多項式として $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元であることに注意)

定義 2.2.22
整数係数多項式 $ f(\mathrm{X})=a_n\mathrm{X}^n+a_{n-1}\mathrm{X}^{n-1}+\cdots+a_1\mathrm{X}+a_0\in \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の係数の最大公約数 $ \gcd(a_n,a_{n-1},\cdots,a_1,a_0)$が1であるとき、 $ f(\mathrm{X})$原始的(primitive)であるという。

2.2.23
(1) $ \mathrm{X}^2+3\mathrm{X}-1$はprimitiveである。
(2) $ 2\mathrm{X}^2+4\mathrm{X}-2$はprimitiveでない。

命題 2.2.24
$ f\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元が既約である場合下記(1)(2)のいずれかである。
逆に下記(1)または(2)が成り立つ場合、$ f$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元として既約である。
(1) $ f$$ \pm p$ ($ p$:素数)
(2)$ f$はprimitiveで $ f=gh(g,h\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}] )$と分解できるのは$ g,h$のいずれかが$ \pm 1$のときに限る。

補題 2.2.25
$ f\in\mathbb{Q}[\mathrm{X}]$$ \deg(f)>0$とすると、有理数$ q$が存在して $ qf\in \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$をprincipleとすることができる。

証明
$ f$の係数を既約分数で表したときの分母の最小公倍数を$ m$とし、分子の最大公約数を$ d$とし、$ q=m/d$とすると $ qf\in \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$$ qf$はprincipleとなる。

補題 2.2.26 (ガウスの補題)
$ f,g\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$がprincipleのとき、$ fg$もprincipleである。

証明

$\displaystyle f(\mathrm{X})$ $\displaystyle = a_n\mathrm{X}^n+a_{n-1}\mathrm{X}^{n-1}+\cdots+a_1\mathrm{X}+a_0$    
$\displaystyle g(\mathrm{X})$ $\displaystyle = b_m\mathrm{X}^m+b_{m-1}\mathrm{X}^{m-1}+\cdots+b_1\mathrm{X}+b_0$ $\displaystyle {\text  とし、}$    
$\displaystyle fg(\mathrm{X})$ $\displaystyle = c_{n+m}\mathrm{X}^{n+m}+c_{n+m-1}\mathrm{X}^{n+m-1}+\cdots+c_1\mathrm{X}+c_0$ $\displaystyle {\text   とおく。}$    

($ a_{n+1}=0$等と定義することにより、全ての自然数iに対し、 $ a_{i},b_{i},c_{i}$を定義する。)
仮に $ fg(\mathrm{X})$がprincipleでないとき、$ fg$の係数の最大公約数の素因子を$ p$とすると、任意$ i$に対し$ p\vert c_{i}$である。他方、$ f,g$はprincipleであるため、 $ p\nmid a_s,p\nmid b_l$となる$ s,l$が存在するため、$ s,l$をそのようなもので最大なものとする。すると、 $ c_{s+l}=a_0b_{s+l}a_s+a_1b_{s+l-1}+\cdots+a_sb_l+\cdots+a_{s+l}b_{0}$であり、 $ p\nmid a_sb_l$であるがそれ以外の項は仮定より$ p$で割り切れる。
したがって、 $ p\nmid c_{s+l}$。これは仮定に矛盾する。

定理 2.2.27
$ f\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元として既約で、$ \deg(f)>0$であるとき、$ f$ $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の元としても既約である。
逆に、 $ f\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$ $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の元として既約でprincipleである場合、$ f$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元としても既約である。

証明
$ f$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元として既約で$ \deg(f)>0$であるとし、 $ f=gh,(g,h\in\mathbb{Q}[\mathrm{X}])$と分解できるとする。このとき、補題2.2.25より有理数$ q_g,q_h$が存在し、 $ g'=q_gg,h'=q_hh\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$でprincipleとできる。すると $ q_gq_hf=g'h'$であり、ガウスの補題より$ g'h'$はprincipleであるが、他方仮定より$ f$もprincipleである。したがって、 $ q_gq_h=\pm 1$である。すると、$ f$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元として既約で$ \deg(f)>0$であると仮定していることより、$ g',h'$のいずれかは定数多項式となる。つまり、$ g,h$のいずれかは定数多項式である。これは、$ f$ $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の元としても既約であることを意味している。

逆に、 $ f\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$ $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の元として既約でprincipleであると仮定すると、$ \deg(f)>0$である。仮に、 $ f=gh,(g,h\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}])$と分解できたと仮定すると、$ f$ $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の元として既約であることより$ g,h$のいずれかは定数多項式であるが、他方、$ f$がprincipleであることにより、いずれかは$ \pm 1$である。よって$ f$ $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の元としても既約である。

上の定理より、 $ \mathbb{Z}[\mathrm{X}]$の既約と $ \mathbb{Q}[\mathrm{X}]$の既約は本質的に同じであり、同一視しても良いことが分かりました。

これにより、$ f$が一次式で割り切れるかは $ f(\mathrm{X})=0$が有理数解を持つか否かできまります。 次の補題は $ f(\mathrm{X})=0$の有理数解を絞るうえで重要な補題です。

補題 2.2.28
$ f\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}]$が一次式 $ a\mathrm{X}+b\in\mathbb{Z}[\mathrm{X}](a\neq 0)$で割り切れる場合、$ a$$ f$の最高次係数の約数であり、$ b$$ f$の定数項の約数である。

証明
明らか。

例えば、最高次係数が1(つまりモニック)の多項式の場合は、定数項の約数のみが$ f=0$の解の候補になります。

定義 2.2.29
モニックな整数係数多項式$ f$に対し $ f(\mathrm{X})=0$の解を代数的整数といい、代数的整数全体の集合を $ \overline{\mathbb{Z}}$と表す。

Remark 2.2.30
後に見るように代数的整数からなる集合 $ \overline{\mathbb{Z}}$は環をなします。

代数的整数に対し、通常の整数を有理整数ということがあります。 有理整数$ n$は、 $ \mathrm{X}-n=0$の解ですので代数的整数です。逆に有理数でかつ代数的整数は有理整数に限ります。

定理 2.2.31
有理数で代数的整数は有理整数に限る。つまり、 $ \overline{\mathbb{Z}}\cap\mathbb{Q}=\mathbb{Z}$

2.2.32
$ \mathrm{X}^5+1$$ \pm 1$を解として持たないため、一次式で割り切れない。

Takashi
平成24年5月27日