2.3.3 原始n乗根

$ \mathrm{X}^n-1=0$の解は$ n$個ありますが、このうち、$ n$乗してはじめて1になるものを原始n乗根といいます。

2.3.4

原始$ n$乗根はいくつあるでしょうか?

1の$ n$乗根は$ n$個あります(Remark2.3.3参照)。ここで、1の$ n$乗根$ \alpha$が何乗して初めて1になるか考えてみましょう。このように、何乗して初めて1になる、何乗のことを、指数といいます。

定義 2.3.5
1の$ n$乗根$ \alpha$に対し、 $ \alpha^r=1$となる最小の自然数$ r$指数という。

2.3.6
1は1の$ n$乗根ですが、1の指数は1です。
$ n$が偶数のとき、-1は1の$ n$乗根になりますが、-1の指数は2です。

原始$ n$乗根の定義より、

$\displaystyle \alpha:原始n乗根 \Longleftrightarrow \alpha:指数がn $

定理 2.3.7
1の$ n$乗根$ \alpha$の指数を$ r$とすると、$ r\mid n$である。

証明
$ r$$ n$の最大公約数を$ d$とすると、定理2.1.17より、$ ar+bn=d$となる整数$ a,b$が存在する。
すると、 $ \alpha^d=\alpha^{ar+bn}=\alpha^{ar}\alpha^{bn}$であるが、$ r$が指数であること、$ \alpha$が1の$ n$乗根であることより右辺は1である。したがって、 $ \alpha^d=1$
ところが指数の定義より、$ d=r$である。したがって、$ r\vert n$

1の原始$ n$乗根の1つを$ \zeta$とおきます。1の原始$ n$乗根は必ず存在します。

Remark 2.3.8
オイラーの公式より $ \exp(2\pi i)=1$なので、 $ \exp{\frac{2\pi i}{n}}$は1の$ n$乗根であり、しかも原始$ n$乗根となることが分かります。したがって、1の原始$ n$乗根は存在します。

命題 2.3.9
(1)$ i$を整数とすると $ \zeta^i=1 \Longleftrightarrow n\vert i $
(2)$ i,j$を整数とすると、 $ \zeta^i=\zeta^j \Longleftrightarrow i\equiv j \pmod n$
(3)1の$ n$乗根は、$ \zeta^i$$ i$:整数)の形で表せる。

証明
(1)$ \zeta^i=1$とする。$ i$$ n$の最大公約数を$ d$とすると定理2.1.17より、$ ai+bn=d$となる整数$ a,b$が存在する。
すると、 $ \zeta^d=\zeta^{ai+bn}=\zeta^{ai}\zeta^{bn}$であるが、 $ \zeta^i=1,\zeta^n=1$のため右辺は1である。したがって、$ \zeta^d=1$
ところが$ \zeta$は原始$ n$条項であるため、$ d=n$である。したがって、$ n\vert i$

(2) $ \zeta^i=\zeta^j\Longleftrightarrow\zeta^{i-j}=1\Longleftrightarrow n\vert i-j$

(3) $ 1,\zeta,\zeta^2,\zeta^3,\cdots,\zeta^{n-1}$は全て異なり$ n$個存在するため、これらが1の$ n$乗根の全てである。

1の$ n$乗根は$ \zeta^i$の形で表されますので、このうちどのようなものが原始$ n$乗根になるのか考えてみましょう。

定理 2.3.10
1の原始$ n$乗根の1つを$ \zeta$とおく。
整数$ m$に対し$ \zeta^m$の指数は、 $ \frac{n}{\gcd(n,m)}$ である。特に、

$\displaystyle \zeta^mは1の原始n乗根 \Longleftrightarrow nとmは互いに素$

証明
$ d=\gcd(n,m),n'=n/d,m'=n/d$とおく。また、$ \zeta^m$の指数を$ r$とする。
すると$ r$ $ \zeta^{mr}=1$を満たす最小の自然数である。これは、$ \zeta$が原始$ n$乗根であることより$ n \vert mr$を満たす最小の自然数と同値である。
$ n'\vert m'r$となる最小の自然数と同値であるが、$ n'$$ m'$は互いに素であるため、このような最小の$ r$$ n'$である。

この定理により1の原始$ n$乗根の個数は、1から$ n$までの自然数のうち$ n$と互いに素なもの個数と等しいことが分かります。1から$ n$までの自然数のうち$ n$と互いに素なもの個数を$ \phi (n)$で表しオイラー関数といいます。オイラー関数については、次講で詳しくみていきましょう。

Takashi
平成24年5月27日