3.1.10 置換

有限群の重要な例として置換群があります。置換群はガロア理論を学ぶ上で必須のものです。この項では置換群をみていきましょう。

要素が$ n$個ある集合$ X$を考えます。$ X$は要素の個数が$ n$であればどのようなものでも構いませんが、ここでは、分かりやすさの観点から $ X=\{1,2,\cdots,n-1,n\}$とおきましょう。$ X$$ X$への全単写のことを$ n$次の置換(permutation)といいます。 置換$ \sigma$は、$ X$から$ X$への全単写ですので、$ 1$$ \sigma(1)$に写し、$ 2$$ \sigma(2)$に写し$ \cdots$$ n$$ \sigma(n)$に写します。このとき、$ \sigma$を記号で

$\displaystyle \sigma={\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & \cdots & n-1 & n \\
\...
...a(1) & \sigma(2) & \sigma(3) & \cdots & \sigma(n-1)& \sigma(n)
\end{pmatrix} }
$

で表します。

置換$ \sigma$は、全単射ですので、 $ \sigma(1), \sigma(2) , \sigma(3) , \cdots , \sigma(n-1), \sigma(n)$は、$ 1$から$ n$までの全ての数字が1回だけ必ず出てきます。

3.1.51
$ n=2$としてみましょう。置換$ \sigma$は、$ X=\{1,2\}$から$ X$への写像ですので、$ 1,2$の像が決まれば$ \sigma$が決まります。そこで $ \sigma(1)=1$とすると$ \sigma$は全単射ですので $ \sigma(2)=2$と決まります。つまり、 $ \sigma= {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
1 & 2
\end{pmatrix} }
$です。
また、 $ \sigma(1)=2$とすると $ \sigma(2)=1$と決まります。このとき、 $ \sigma={\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 1
\end{pmatrix}}
$です。
以上より、$ n=2$のときの置換は、 $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
1 & 2
\end{pmatrix}
}$ $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 1
\end{pmatrix} }$の2つがあります。

3.1.52
$ n=3$としてみましょう。置換$ \sigma$は、 $ X=\{1,2,3\}$から$ X$への写像ですので、$ 1,2,3$の像を決定する必要があります。$ n=2$のときと同様に考えると
$ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
1 & 2 & 3
\end{pmatrix}
\begin{pmat...
... 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
3 & 2 & 1
\end{pmatrix}
}$
の6個の置換があることが分かります。

$ X$の恒等写像 $ \mathrm{id}_X$$ X$の全単射ですので置換になります。 $ \mathrm{id}_X$のことを恒等置換とよび単に $ \mathrm{id}$と記載します。また、$ X$の2元のみを交互に入れ替える置換のことを互換(transposition)といいます。$ X$の2元を$ i,j$とすると$ i$$ j$に写し、$ j$$ i$に写し、$ i,j$以外はそのままとする写像のことです。$ i,j$を入れ替える互換を$ (i,j)$という記号で表します。
また、$ X$の複数個の元を順繰りに置き換える置換を巡回置換(cycle)といいます(次の例を参照)。互換も巡回置換の1つです。

3.1.53
$ n=2$の場合、 $ \sigma={\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 1
\end{pmatrix}}
$は、1と2を入れ替えていますので互換であり、$ (1 2)$と表します。

3.1.54
$ n=3$のとき $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
1 & 3 & 2
\end{pmatrix} }
$は、2と3を入れ替える互換であり、$ (2 3)$と表します。
同様に、 $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
2 & 1 & 3
\end{pmatrix} }
$は、$ (1 2)$と表し、 $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
3 & 2 & 1
\end{pmatrix}}
$は、$ (1 3)$と表し

また、 $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
2 & 3 & 1
\end{pmatrix}} $ は、 $ 1\rightarrow 2,2\rightarrow 3,3\rightarrow1$と順繰りに移動させる置換ですので、巡回置換であり$ (1 2 3)$と表します。 同様に $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3\\
3 & 1 & 2
\end{pmatrix}}$ は、$ (1 3 2)$と表します。(なお、$ (3 2 1)$とも$ (2 1 3)$とも記載できますがこれらは全て同じ置換です。)

このように、2次置換の2つは、 $ \mathrm{id},(1 2)$と表され、3次の置換6つは、 $ \mathrm{id},(1 2),(1 3),(2 3),(1 2 3),(1 3 2)$と表され、これらはすべて巡回置換です( $ \mathrm{id}$$ X$の0個の元の巡回置換と考えられます。)。一方、$ n>3$のときは全ての置換が巡回置換となるわけではありません。

3.1.55
$ n=4$のとき、置換 $ {\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
2 & 1 & 4 & 3
\end{pmatrix} } $ は、巡回置換ではありません。

Takashi
平成24年5月27日