3.1.11 対称群

$ n$次の置換 $ \sigma_1,\sigma_2$は、$ X$から$ X$への写像であるため、合成 $ \sigma_1\circ\sigma_2$を考えることができ、合成も$ X$から$ X$への写像となります。また、 $ \sigma_1,\sigma_2$は全単写であるためその合成も全単写となります。よって、置換の合成も$ n$次の置換となります。置換の合成では$ \circ$を省略し $ \sigma_1\sigma_2$と記載します。

3.1.56
$ n=2$の置換は $ \mathrm{id},\sigma=(1 2)$ の2つですが、 $ \mathrm{id}$は恒等写像のため $ \mathrm{id}\sigma=\sigma\mathrm{id}=\sigma$です。
また、 $ (1 2) (1 2)=\mathrm{id}$です。

この例のように互換$ (i j)$$ i,j$を互いに入れ替えるますので、同じ互換を合成すると元に戻りますので、 $ (i j)(i j)=\mathrm{id}$です。

3.1.57
$ (1 2 3)(1 2 3)=(1 3 2)$です。
$ (1 2 3)(1 3 2)=\mathrm{id}$です。

3.1.58
$ \sigma_1={\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
2 & 3 & 4 & 1
\end{pmatr...
...gma_2={\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
2 & 1 & 4 & 3
\end{pmatrix}}$ とし、 $ \sigma_1\sigma_2$を考えましょう。
ここで、$ \sigma_1$を先に作用させるのか、$ \sigma_2$を先に作用させるのかで結論が変わってきますが、本HPでは、写像の合成と同様に先に$ \sigma_2$を作用させると約束します。すると、 $ \sigma_2(1)=2,\sigma_1(2)=3$なので $ \sigma_1\sigma_2$$ 1$$ 3$に移します。同様に $ \sigma_2(2)=1,\sigma_1(1)=2$なので$ 2$$ 2$に移し、 $ \sigma_2(3)=4,\sigma_1(4)=1$なので$ 3$$ 1$に移し、 $ \sigma_2(4)=3,\sigma_1(3)=4$なので$ 4$$ 4$に移します。よって、

$\displaystyle \sigma_1\sigma_2=
{\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
3 & 2 & 1 & 4
\end{pmatrix}}=(1 3)$

です。

同様に、 $ \sigma_2\sigma_1$を考えてみましょう。今度は、$ \sigma_1$が先に作用します。すると、 $ \sigma_1(1)=2,\sigma_2(2)=1$なので$ 1$$ 1$に移し、 $ \sigma_1(2)=3,\sigma_2(3)=4$なので$ 2$$ 4$に移し、 $ \sigma_1(3)=4,\sigma_2(4)=3$なので$ 3$$ 3$に移し、 $ \sigma_1(4)=1,\sigma_2(1)=2$なので$ 4$$ 2$に移します。よって、

$\displaystyle \sigma_2\sigma_1=
{\small
\begin{pmatrix}
1 & 2 & 3 & 4\\
1 & 4 & 3 & 2
\end{pmatrix}}=(2 4)$

です。

このように、 $ \sigma_1\sigma_2$ $ \sigma_2\sigma_1$は一般的には異なります。

定理 3.1.59
$ n$次の置換全体の集合は写像の合成を演算とする群となる。

証明
演算がとじているのは上記のとおり。(条件0)
演算は写像の合成であり、写像の合成は結合法則がなりたっているため、結合法則も成り立つ。(条件1)
$ X$の恒等写像 $ \mathrm{id}_X$$ n$次の置換であり、 $ \mathrm{id}\sigma=\sigma\mathrm{id}=\sigma$であるため単位元が存在する。(条件2)
また、逆写像が逆元になるため、逆元も存在する。(条件3)
よって、$ n$次の置換全体は合成を演算とする群となる。

定義 3.1.60
$ n$次の置換全体からなる群を$ n$次対称群(symmetric group)といい$ S_n$で表します。

$ S_n$は上記例のとおり一般的にはアーベル群ではありません。対称群はアーベル群ではない有限群の中ではもっとも基本的な群です。

命題 3.1.61
$ S_n$の位数は $ n!=n\cdot(n-1)\cdot(n-2)\cdots 2\cdot 1$である。

証明
置換$ \sigma$は要素が$ n$個の集合 $ X=\{1,2,\cdots,n-1,n\}$のn個を1列に並べることと対応するので、その個数は順列 $ {}_n\mathrm{P}_n=n!$である。

上の証明では順列 $ {}_n\mathrm{P}_n$を使いましたが、順列になじみがない場合は、次のように考えることでも分かります。 $ n$次の置換$ \sigma$$ 1$から$ n$までの像、つまり$ \sigma(1)$から$ \sigma(n)$を特定することにより決まりますが、これを順にかんがえてみると、$ \sigma(1)$$ 1$から$ n$までの$ n$個が考えられ、$ \sigma(1)$が特定されると、$ \sigma(2)$は1から$ n$までのうち$ \sigma(1)$以外の$ (n-1)$個が、 $ \sigma(1),\sigma(2)$が特定されると$ \sigma(3)$は1から$ n$までのうちの、 $ \sigma(1),\sigma(2)$以外の$ (n-2)$個に特定され$ \cdots$これを繰り返すことにより、全部で$ n!$個と分かります。

$ n$が小さいときの群構造をみていきましょう。

3.1.62 (2次対称群)
$ S_2=\{\mathrm{id},(1 2)\}$です。これは、$ (1 2)$を生成元とする位数2の巡回群ですので、 $ S_2\cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$です。なお、$ S_2$の位数は2ですが、位数2の群は全て $ \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$と同型であるこからもこの結論は得られます。

3.1.63 (3次対称群)
$ S_3$の位数は6であり、 $ S_3=\{\mathrm{id},(1 2),(1 3),(2 3),(1 2 3),(1 3 2)\}$です。
そして、 $ \sigma=(1 2 3),\tau=(1 2)$とおくと、循環置換の性質より $ \sigma^3=\mathrm{id},\tau^2=\mathrm{id}$が分かります。(一般的に循環置換$ \sigma$の長さを$ m$とする$ \sigma$の位数は$ m$です。)

また、$ \sigma$$ \tau$以外の元は、 $ \sigma^2=(1 3 2),\sigma\tau=(1 3),\tau\sigma=(2 3)$と表されます。このように$ \sigma$$ \tau$によって$ S_3$の全ての元が表せるような場合、$ S_3$ $ \sigma,\tau$によって生成されるといいます。そして、 $ \tau\sigma=(2 3)$ですので $ (\tau\sigma)^2=id$となります。

詳細は触れませんが、$ S_3$における群構造は、 $ \sigma,\tau$で生成され、$ \sigma$$ \tau$の間に $ \sigma^3=\mathrm{id},\tau^2=\mathrm{id},(\tau\sigma)^2=id$という関係があることによってすべて分かります。このような関係のことを基本関係と呼びます。

$ \sigma\tau\neq\tau\sigma$ですので$ S_3$は非可換群です。また、$ S_3$の元は$ n\geqq3$$ S_n$の元と考えることができます(4以上の数は恒等置換であると考えることにより)ので、$ n\geqq3$$ n$に対し$ S_n$は非可換群であることが分かります。

Takashi
平成24年5月27日