3.1.9 準同型定理

定義 3.1.45
準同型 $ f:G\longrightarrow H$に対し、$ H$の単位元$ e_H$の逆像 $ f^{-1}(e_H)$核(kernel)といい記号 $ \mathrm{Ker}f$で表す。つまり、 $ \mathrm{Ker}f=\{ g\in G \vert f(g)=e_H \}$

次の命題によりカーネル(日本語でも核よりカーネルと呼ぶ方が多いです)は$ G$の部分群になります。カーネルは大変重要な部分群です。

また、準同型の像$ f(G)$ $ \mathrm{Im}f$と表します。具体的には $ \mathrm{Im}f=\{h\in H \vert h=f(g),g\in G \}$です。
次の命題より $ \mathrm{Ker}f$$ G$の部分群であり、 $ \mathrm{Im}f$$ H$の部分群となります。後にみるように $ \mathrm{Ker}f$正規部分群になります。なお、 $ \mathrm{Im}f$$ H$の部分群ですが必ずしも正規部分群であるとはかぎりません。

命題 3.1.46
2つの群$ G,H$の間の準同型 $ f:G\longrightarrow H$に対し
(1) $ \mathrm{Ker}f$$ G$正規部分群である。
(2) $ \mathrm{Im}f$$ H$の部分群である。
(3) $ \mathrm{Ker}f=\{e_G\}\Longleftrightarrow f:単射$

証明
(1) $ g_1,g_2\in \mathrm{Ker}f$に対し $ f(g_1g_2^{-1})=f(g_1)f(g_2)^{-1}=e_{H}$より $ g_1g_2^{-1}\in \mathrm{Ker}f$である。よって、 $ \mathrm{Ker}f$は部分群であることが分かった。
正規部分群であることは、任意の$ g\in G$と任意の $ k\in\mathrm{Ker}f$に対し、 $ f(gkg^{-1})=f(g)f(k)f(g)^{-1}=f(g)f(g)^{-1}=e_H$であり $ gkg^{-1}\in\mathrm{Ker}f$となることから分かる。
(2) $ h_1h_2\in\mathrm{Im}f$に対し、 $ \mathrm{Im}$の定義よりある $ g_1,g_2\in G$が存在して $ h_1=f(g_1),h_2=f(g_2)$となる。したがって、 $ h_1h_2^{-1}=f(g_1)f(g_2^{-1})=g(g_1g_2^{-1})$であるため、 $ h_1h_2^{-1}\in\mathrm{Im}f$である。よって、 $ \mathrm{Im}f$$ H$の部分群となる。
(3) $ \mathrm{Ker}f=\{e_G\}$とする。 $ f(g_1)=f(g_2)$とすると、 $ f(g_1g_2^{-1})=e_H$であるため、 $ g_1g_2^{-1}\in \mathrm{Ker}f$である。したがって、 $ g_1g_2^{-1}=e_G$であり$ g_1=g_2$となる。これは$ f$が単射であることを意味している。
逆に$ f$が単射であると仮定すると $ \mathrm{Ker}f$は空集合又は1元からなる集合となるが、 $ e_G\in \mathrm{Ker}f$であるため、 $ \mathrm{Ker}f=\{e_G\}$である。

3.1.47
自然数$ m$を固定し、 $ \mathbb{Z}$から $ \mathbb{Z}$への$ m$倍写像$ f_m$を考えます。

$\displaystyle \begin{array}{rccc}
f_m : & \mathbb{Z}& \longrightarrow & \mathb...
...$\in$} & & \rotatebox{90}{$\in$} [-4pt]
& n & \longmapsto & mn
\end{array} $

すると、$ f_m$は加群 $ \mathbb{Z}$から加群 $ \mathbb{Z}$への準同型写像となります。実際、 $ n_1,n_2\in\mathbb{Z}$とすると $ f_m(n_1+n_2)=m(n_1+n_2)=mn_1+mn_2=f_m(n_1)+f_m(n_2)$です。

$ \mathrm{Ker}f=\{n\in \vert mn=0\}=\{0\}$ですので$ f$は単射です。

$ G$正規部分群$ N$とします。すると、定理3.1.35より$ G/N$は群$ G$の演算から自然に導入される演算により群となります。また、群$ G$の元$ g$に対し剰余類$ gN$を対応させることにより、$ G$から$ G/N$への写像$ \pi$が定義されます。この写像を$ G$から$ G/N$への自然な写像ということがあります。$ \pi$は準同型写像となります。

命題 3.1.48
$ G$を群、$ N$をその正規部分群とすると$ G$から$ G/N$への自然な写像$ \pi$は次の性質を満たす。
(1)$ \pi$は準同型写像
(2)$ \pi$は全射
(3) $ \mathrm{Ker}\pi=N$

つまり、自然な写像 $ \pi:G\longrightarrow G/N$ $ N=\mathrm{Ker}\pi$とする全射準同型写像です。

$ G,H$を2つの群とし$ f$$ G$から$ H$への準同型写像とすると、 $ \mathrm{Ker}f$$ G$の正規部分群です。したがって、$ G$から $ G/\mathrm{Ker}f$への自然な全射準同型写像$ \pi$が定義されます。

一方、準同型写像 $ f:G\longrightarrow H$は、剰余群 $ G/\mathrm{Ker}f$から$ H$への写像 $ \overline{f}$を次のように定義できます。

$\displaystyle \begin{array}{rccc}
\overline{f}:& G/\mathrm{Ker}f & \longrightar...
...tebox{90}{$\in$}  [-4pt]
& g\mathrm{Ker}f & \longmapsto & f(g)
\end{array} $

$ \overline{f}$がwell-definedであること、つまり、剰余類の代表元の取り方に依らないことは次のように分かります。 $ g_1\mathrm{Ker}f=g_2\mathrm{Ker}f$とすると、 $ g_1=g_2k,k\in\mathrm{Ker}f$です。すると、 $ f(g_1)=f(g_2k)=f(g_2)f(k)=f(g_2)$ $ \because k\in\mathrm{Ker}f$)。よって、剰余類の代表元の取り方に依らずに$ f(g)$が定義されます。

次の定理は、準同型写像 $ f:G\longrightarrow H$から定義される準同型写像 $ \pi:G\longrightarrow G/\mathrm{Ker}f$, $ \overline{f}:G/\mathrm{Ker}f\longrightarrow H$が整合的であること、更に、 $ G/\mathrm{Ker}f$ $ \mathrm{Im}f$と同型であることを示す、大変重要な定理です。

定理 3.1.49 (準同型定理)
2つの群$ G,H$の間の準同型写像を $ f:G\longrightarrow H$とすると、準同型写像 $ \pi:G\longrightarrow G/\mathrm{Ker}f$及び $ \overline{f}:\overline{f}:G/\mathrm{Ker}f\longrightarrow H$に対し $ f=\overline{f}\circ\pi$が成り立つ。つまり、次が可換図式となる。

$\displaystyle \xymatrix{
G \ar@{->}[r]^{f}\ar@{->}[d]_{\pi}\ar@{}[dr]_(0.3)\circlearrowleft & H \\
G/\mathrm{Ker}f \ar@{->}[ru]_{\overline{f}} & \\
}
$

また $ \overline{f}$ $ G/\mathrm{Ker}f$から $ \mathrm{Im}H$への写像と考えると同型写像となる。

$\displaystyle \overline{f}:G/\mathrm{Ker}f\cong\mathrm{Im}H$

3.1.50
自然数$ m$を固定し、整数 $ \mathbb{Z}$から複素数 $ \mathbb{C}^\times$への写像$ f_m$

$\displaystyle \begin{array}{rccc}
f_m : & \mathbb{Z}& \longrightarrow & \mathb...
... [-4pt]
& n & \longmapsto & \exp{\textstyle{\frac{2n\pi i}{m}}}
\end{array} $

で定義します。すると、任意の整数 $ n_1,n_2\in\mathbb{Z}$に対し

$\displaystyle f_m(n_1+n_2)=\exp{\textstyle{\frac{2(n_1+n_2)\pi i}{m}}}=\exp{\te...
...yle{\frac{2n_1\pi i}{m}}}\exp{\textstyle{\frac{2n_2\pi i}{m}}}=f_m(n_1)f_m(n_2)$

です。これにより、$ f_m$は、加群 $ \mathbb{Z}$から $ \mathbb{C}^\times$への準同型写像になります。

$ \mathrm{Ker}f_m=\{n\in \mathbb{Z}\vert \exp{\textstyle{\frac{2n\pi i}{m}}}=1\}=\{n\in\mathbb{Z}\vert nはmの倍数\}=m\mathbb{Z}$です。また、 $ \mathrm{Im}f_m$$ 1$$ m$乗根全体 $ \mathbb{C}^\times_m=\{ z\in\mathbb{C}\vert z^m=1\}$となります。

これにより、

$\displaystyle \mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\cong \mathbb{C}^\times_m$

が分かります。

Takashi
平成24年5月27日