3.1.7 正規部分群

前講において群$ G$の部分群$ H$による右剰余類$ G/H$及び左剰余類 $ H\backslash G$を考えました。一般的には、右剰余類と左剰余類とは異なりますが、一致する場合があります。右剰余類$ gH$と左剰余類$ Hg$が一致する場合つまり $ gH=Hg\leftrightarrow gHg^{-1}=H$の場合を考えます。

定義 3.1.32
$ G$、その部分群$ H$に対し、$ G$の任意の元$ g$に対し $ gHg^{-1}=H$となるような$ H$正規部分群(normal subgroup)という。

正規部分群の定義は右剰余類と左剰余類が常に等しくなるような部分群ですので、次の命題は当前の結果です。

命題 3.1.33
$ G$の正規部分群$ N$とすると $ G\big/ N=N\backslash G$

$ G$に対し、自明な部分群である$ G$及び$ \{e\}$は正規部分群です。またアーベル群の部分群は正規部分群であることはアーベル群の定義より明らかです。明らかではあるものの重要ですのであえて命題としました。

命題 3.1.34
$ G$がアーベル群であるとき、任意の部分群$ H$は正規部分群である。

証明
$ g\in G, h\in H$に対し、 $ ghg^{-1}=gg^{-1}h=h$であるため、 $ gHg^{-1}=H$である。

$ G$の正規部分群を$ N$とし($ N$は正規(normal)の頭文字)、$ G\big/ N$の剰余類$ gN$を考えます。正規部分群の定義より左剰余類と右剰余類は一致しますので、特に区別をすることなく単に剰余類と呼びます。
$ G$には演算が定義されていますので、2つの剰余類$ gN,hN$に対し、 $ gN\cdot hN$を考えることができます。$ N$が正規であることより $ (gN)\cdot (hN)=g(Nh)N=g(hN)N=(gh)N$となります。(括弧が動くのは結合法則のためです。)つまり、 $ gN\cdot hN=ghN$が成り立ちます。左辺は2つの剰余類の積であり、右辺は剰余類です。したがって、剰余類$ G/H$に自然な演算が定義できます。(ここで、「自然な」という意味は「$ G$の演算から自然に導かれる」という意味です。)この演算により$ G\big/ N$が群になるというのが次の定理です。

定理 3.1.35
$ G$を群、$ N$をその正規部分群とするとき、$ G\big/ N$には自然な演算が定義でき、その演算により群になる。

証明
演算が定義できることは上のとおり。(条件0)
結合法則は$ G$の結合法則より導かれる。(条件1)
$ eN=N$$ G\big/ N$の剰余類であり$ NgN=gN$より$ G\big/ N$の単位元となる。(条件2)
任意の剰余類$ gN$に対し、 $ gNg^{-1}N=gg^{-1}N=N$であり、逆元$ g^{-1}N$が存在する。(条件3)
よって、$ G\big/ N$は自然に定義される演算により群となる。

$ N$$ G$の正規部分群とするとき、上の定理より剰余類$ G/N$は群となりますが、この群を商群(quotient group)といいます。

Takashi
平成24年5月27日