2.1.4 整数のイデアル
整数
に対し、
の部分集合
を、
で定義します。
のときは、
でありの倍数の集合と一致します。
という記号は通常は使いません。通常は、単にと記載しますが、は最大公約数を意味していますので、
の部分集合である
と混乱しないように記号を分けました。しかし、次の定理より
と最大公約数は実質的に同じものであることが分かりますので、
の代わりにと記載しても混同する心配はほとんどありません。
定理 2.1.19
整数
に対し、
(1)
のとき、
(2)
のとき、
(3)
の最大公約数を
とすると、
(4) 仮に
であった場合、
は
の最大公約数又は最大公約数を負にしたものである。
証明
(1)
とすると、
となる
が存在する。すると、
であり、
ですので、
(2) また、
であり
ですので、
(3)
のときは明らか。
また、
のときは
定理2.1.17より成立している。
のときは数学的帰納法を用いて証明することもできますし、
定理2.1.17が3つ以上の整数に対しても成立していることからも分かります。
(4)
とすると、定義より、
であるが、このようなことが成立するのは、
が
のときに限る。よって、証明された。
つぎに
を一般化したイデアルを定義しましょう。
のイデアルは
形をしていることが分かります。
定義 2.1.20
の部分集合
で次の性質を持つものを
の
イデアル(ideal)であるという。
(1)
(2)
定義の(1)は
を整数倍しても
に含まれることを意味しています。また、(2)は
が加法について閉じていることを意味しています。
(1)により、必ず0は
に含まれることが分かります。また、仮にが
に含まれていると仮定すると
となります。
Remark 2.1.21
に対し定義(1)より
と分かります。定義(2)と考え合わせると、
を
加法群と考える場合
は
の
部分群になります。逆に、
を加法群と考えるときの
の部分群はイデアルになります。
このように、
の部分群と
のイデアルは同じものになります。しかし、一般的に環のイデアルは環の部分集合として定義されますが、環の加法群の部分群が環のイデアルになるとは限りません。
例 2.1.22
の部分集合
は
定義2.1.20を満たしますのでイデアルです。
を
零イデアルといいます。
自身も
の部分集合であり、
定義2.1.20を満たしますのでイデアルです。
これらを
の
自明なイデアルといいます。
定義 2.1.24
イデアル
が
と一致する場合、イデアル
は、
から生成される(generated)といい、
をイデアル
の
生成元(generator)であるという。有限個の生成元から生成されるイデアルを
有限生成イデアル(finitely generated ideal)、1つ元から生成されるイデアルを
単項イデアル(principal ideal)という。
例 2.1.25
の自明なイデアルである
は、
ですので単項イデアルです。
同様に、零イデアル
は
ですので単項イデアルです。
定理2.1.19により、
における有限生成イデアルは、単項イデアルであることが分かります。次の定理は、
の全てのイデアルが単項イデアルであることを示しています。
定理 2.1.26
のイデアル
に対し整数
が存在し、
は
から生成される。この場合、
の生成元は
に限る。
証明
零イデアル
の場合は明らか。零イデアル以外のイデアル
には必ず正の元が含まれている。(
の元を
倍しても
に含まれるため。)
の正の元でもっとも小さい元を
とするとき、
であることを以下証明する。
とし、
と
の最大公約数を
とすると
定理2.1.17より
となる整数
が存在しますが、イデアルの定義より
となります。
は最大公約数であるため
以下であり、他方、
は最小数であるため
。したがって
。よって、
と
の最大公約数が
であり、これは
が
の倍数であることを意味する。よって、
であることが証明された。
後段は、
定理2.1.19により証明されている。
Remark 2.1.27
一般論として、イデアルは環において定義されます。イデアルは常に有限生成とは限りませんし、有限生成イデアルが単項イデアルになるわけでもありません。
しかし、ユークリッド整域においては、全てのイデアルは単項イデアルになります。
例 2.1.28
以上のとおり、
のイデアルは常に有限生成であり、また、生成元は最大公約数になることがわかります。つまり、
です。ここで、
です。このように、イデアル
と最大公約数
は同視することができるため、通常、イデアルの記号には
を付さずに単に
と記載します。このように、記載してもこれが最大公約数を意味するのか、最大公約数から生成されるイデアルを意味するのかは、通常、前後の文脈から明らかであるため特に混乱することはありません。
Takashi
平成24年5月27日