2.5.1 ルジャンドルの記号

$ p$を素数とし、$ a$$ p$と素な整数とします。このとき2次方程式

$\displaystyle x^2\equiv a \pmod{p} $

の解の有無について考えてみましょう。$ a$$ p$と素な整数に限定するのは、$ a$$ p$の倍数のとき $ a\equiv 0 \pmod{p}$であり解があることが自明であるためです。

素数を法とする合同類には原始根があり、すべての合同類は原始根のべき乗で表すことができます。したがって、$ r$を原始根とすると任意の合同類は、 $ r^d,(d=0,1,\cdots,p-1)$で表すことができます。 $ \overline{a} \mod{p}$が属する剰余類が$ r^d$と表されるとき、$ d$が偶数の場合、 $ x=r^{\frac{d}{2}}$とすると、 $ x^2= r^d= a  \mod{p}$となるため、上の式が解を持つことが分かります。

逆に上の式が解をもつと仮定すると、$ x=r^d$とおけ、 $ x^2=r^{2d}\equiv a \pmod{p}$となるため、$ a$は原始根の偶数乗であることが分かります。

つまり、上の2次合同式の$ a$が原始根の偶数乗のとき、上の合同式は解を持ち、逆に、解を持つときは$ a$が原始根の偶数乗のときに限ります。

この考察は原始根$ r$の取り方に依存していないことに注意しましょう。このことは、下記の補題からも確認できます。

補題 2.5.1
$ p$を素数とし、$ r_1,r_2$$ p$を法とする2つの原始根とする。 (定理2.4.26より、原始根は$ \phi(p-1)$個存在します。)
$ p$を法とする1つの合同類$ a$を、$ r_1$及び$ r_2$のべき乗で表したとき、その偶奇は一致する。つまり、 $ a=r_1^n=r_2^m$のときの$ n$$ m$の偶奇は等しい。

証明
$ p$を法とする合同類$ a$ $ a=r_1^n=r_2^m$と表されたとき、$ n,m$の偶奇が一致することを示す。
$ r_1$は原始根であるため、$ r_2=r_1^a$と表すことができ、このとき$ r_2$が原始根であることより、$ a$$ p-1$と互いに素となる(命題3.1.14参照)。$ p=2$のとき成り立つのは明らかであるため、$ p$は奇素数と仮定してよい。すると、$ p-1$は偶数となるため$ a$は奇数である。
$ r_2^m=r_1^{am}=r_1^{n}$であり、$ p-1\vert am-n$であるが、$ p-1$が偶数であり$ a$が奇数であるため$ n,m$の偶奇は一致する。

定義 2.5.2
$ p$を素数とするとき2次合同式

$\displaystyle x^2\equiv a \pmod{p} $

が解をもつような$ a$のことを$ p$を法として平方剰余(quadratic residue)といい解がをもたないような$ a$のことを$ p$を法として平方非剰余(quadratic nonresidue)という。

ここで、ルジャンドル記号 $ a\overwithdelims () p$を次のように導入します。

$\displaystyle {a\overwithdelims () p} =
\begin{cases}
1 & aがpを法として平方剰余\\
-1 & aがpを法として平方非剰余\\
\end{cases}$      

フェルマーの小定理より、0以外の合同類は$ p-1$乗すると $ \overline{1}$になりますが、合同類が原始根の偶数乗と表されるときは $ \frac{p-1}{2}$乗することにより $ \overline{1}$となり、原始根の奇数乗と表されるときは $ \frac{p-1}{2}$乗すると $ \overline{-1}$となることが分かります。したがって、ルジャンドル記号は、 $ \frac{p-1}{2}$乗と等しいことがわかります 以上のルジャンドル記号の性質をまとめると次のようになります。

命題 2.5.3
$ p$を素数$ a$$ p$と素な整数とすると、
$\displaystyle x^2\equiv a \pmod{p}が解を持つ$ $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle {a\overwithdelims () p}=1$  
  $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle aが\mod{p}で原始根の偶数乗となる$  
  $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle a^{\frac{p-1}{2}}\equiv 1  \pmod{p}$  


$\displaystyle x^2\equiv a \pmod{p}が解を持たない$ $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle {a\overwithdelims () p}=-1$  
  $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle aが\mod{p}で原始根の奇数乗となる$  
  $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle a^{\frac{p-1}{2}}\equiv -1  \pmod{p}$  

ルジャンドル記号の基本的な性質をみていきましょう。$ 2$以外の素数は奇数ですので$ 2$でない素数を奇素数(odd prime)といいます。

定理 2.5.4 (ルジャンドル記号の性質)
$ p$を奇素数、$ a,b$$ p$と素な整数とすると、
(1) $ {a\overwithdelims () p}\equiv a^{\frac{p-1}{2}} \pmod{p}$
(2) $ {ab\overwithdelims () p}={a\overwithdelims () p}{b\overwithdelims () p}$
(3) (第一補充法則) $ {-1\overwithdelims () p}=(-1)^{\frac{p-1}{2}}$
(4) (第二補充法則) $ {2\overwithdelims () p}=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}$

証明
(1)(3)は、上の命題から明らか。
(2)は(1)より明らか。
(4)は次節で平方剰余の相互法則と一緒に証明します。

(2)は、 $ {\cdot \overwithdelims () p}$ $ (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times$から $ \{\pm 1\}\subset\mathbb{C}^\times$への群準同型写像であることを意味しています。つまり、

\begin{displaymath}
\begin{array}{rccc}
{\cdot \overwithdelims () p}:&(\mathbb{...
...ngmapsto & {a \overwithdelims () p}       \
\end{array}\end{displaymath}

は準同型写像です。群$ G$から $ \mathbb{C}^\times$の群準同型写像を指標(character)といいます。ルジャンドル指標は、 $ (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\times$の指標と考えることができます。

また、(4)の意味するところは以下のとおりです。 2でない素数$ p$は、$ \mod{8}$で、1,3,5,7のいずれかです。そして、1,7のとき、 $ \dfrac{p^2-1}{8}$が偶数となり、3,5のとき奇数になりますしたがって(4)を言い換えると次のようになります。

命題 2.5.5 (第2補充法則)
$ p$を奇素数とすると
$\displaystyle p\equiv 1,7 \mod{8} $ $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle  {2\overwithdelims () p}=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}=1$  
$\displaystyle p\equiv 3,5 \mod{8} $ $\displaystyle \Longleftrightarrow$ $\displaystyle  {2\overwithdelims () p}=(-1)^{\frac{p^2-1}{8}}=-1$  

Takashi
平成24年5月27日