3.1.3 群の位数

定義 3.1.8 (群の位数)
$ G$の元の個数が有限である群$ G$有限群(finite group)といい、有限でない(つまり無限の)群を無限群(infinite group)といいます。
有限群$ G$の元の個数を$ G$の位数(order)といい$ \vert G\vert$と記載します 。
また、群$ G$の元$ g$に対し$ g^n=e$となる最小の自然数$ n$のことを$ g$位数(order)といい$ \vert g\vert$と記載する。

3.1.9
定義より群$ G$の単位元$ e$の位数$ \vert e\vert$は1です。
また、群$ G$の位数$ \vert G\vert$と群$ G$の元$ g$の位数$ \vert g\vert$との間には大変重要な関係があります。

Remark 3.1.10
$ G$の元の個数も、元$ g$に対し$ g^n=e$となる最小の自然数も次のような理由があるためどちらも位数といいます。前者は群の位数であり、後者は元の位数であるため定義に問題があるわけではありませんが、文脈によっては混乱することもあるかも知れませんので、単に位数という場合は、群の位数か元の位数か注意する必要があります。
$ g$を生成元とする部分群 $ <g>=\{e,g,g^2,g^3,\cdots\}$ を考えると、部分群$ <g>$の群としての位数$ <g>$と元$ g$の元としての位数は一致することに注意しましょう。これがどちらも位数という用語を用いる理由です。
また、群$ G$の位数と元$ g$の位数との間にはフェルマーの小定理の一般化が成り立ちます。

定義 3.1.11 (巡回群)
$ G$の特定の元$ g$に対し、群$ G$の任意の元が常に$ g$のべき乗($ g^n$)である場合、$ G$巡回群(cyclic gruop)といいます。このときの$ g$のことを生成元(generator)といいます。べき乗($ g^n$)の指数(肩に乗る数)は負の数でも構いません。有限群でかつ巡回群である場合、有限巡回群(finete cyclic group)であるといいます。

3.1.12
自然数$ p$を固定し自然数 $ \mathbb{N}$の部分集合で $ G=\{ p^n \vert n\in \mathbb{Z} \}=\{ \cdots,p^{-2},p^{-1},1,p,p^2,\cdots \}$を考えてみましょう。
$ G$の元を $ p^{n_1},p^{n_2},p^{n_3} (n_i\in Z)$とおきます。
すると、 $ p^{n_1}p^{n_2}=p^{n_1+n_2}$ですので$ G$は乗法について閉じています。(条件0)
また、結合法則も(自然数の部分集合ですので)当然に成り立ちます。(条件1)
$ p^0=1$ですので$ G$に単位元は存在しており(条件2)、$ p^n$の逆元は$ p^{-n}$であり常に逆元は存在します(条件3)。
よって、$ G$は群となることが分かります。$ G$の元は$ p$のべき乗ですので$ G$は巡回群です。
また、$ p$$ G$の生成元となりますが、$ p^{-1}$も生成元であることがわかります。

命題 3.1.13
巡回群はアーベル群である。

証明
$ G$を巡回群、$ g$を生成元とすると、$ G$の元は$ g^n$の形でかける。すると、 $ g^ng^m=g^{n+m}=g^mg^n$でありアーベル群であることが分かります。

命題 3.1.14
$ G$を位数$ n$の有限巡回群とし$ g$を生成元とすると、$ n$と互いに素な整数$ m$に対し$ g^m$$ G$の生成元となる。逆に、$ G$の生成元を$ g^s$とすると$ s$$ n$は互いに素となる。
特に、$ G$の生成元は$ \phi (n)$個存在する。(ここで、$ \phi$オイラー関数

証明
証明は省略しますが、有限巡回群を理解するうえでよい練習問題ですのでやってみてください。

巡回群はアーベル群になりますが、アーベル群は巡回群になるとは限りません。
巡回群は群の中で最も考察がしやすい簡単で単純な群です。(なお、「単純群」には別の意味があります。)

また、群$ G$の演算が加法($ +$)の場合、$ g^n$$ ng$を意味することに注意しましょう。

Remark 3.1.15
有限アーベル群は(有限個の)有限巡回群の直積で表されます。この意味で、巡回群はアーベル群の基本的な構成要素であると考えられます。巡回群は、最も簡単な群ですが、有限アーベル群は、最も簡単な群の次に簡単な群であるといえます。

また、有限生成アーベル群は(有限個の)巡回群の直積になることが知られています(有限生成アーベル群の基本定理)。

位数が2及び3の群は必ず巡回群であることをみていきましょう。

3.1.16 (2元からなる群)
$ e,a$という2元からなる集合$ G=\{e,a\}$を考えます。$ G$が群をなし、$ e$が単位元であると仮定すると、$ ea=ae=a$となります。すると$ a$の逆元は$ a$となります。($ e$$ a$の逆元とすると$ e=a$となってしまうため。)
したがって、$ a^2=e$です。
ここまでのことをまとめると$ e,a$の演算は次のようになります。
$ ee=e$ $ ea=a$
$ ae=a$ $ aa=e$

$ a^2=e$ですので、$ G$$ a$から生成される巡回群となります。(当然アーベル群です。)
次項以降で確認するとおり、位数2の群は $ \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$と全て同型となります。

3.1.17 (3元からなる群)
$ e,a,b$という3つの元からなる群 $ G=\{e,a,b\}$を考えましょう。
演算が閉じているため$ ab$$ e,a,b$のいずれかになりますが、仮に$ ab=a$とすると左から$ a^{-1}$をかけることにより$ b=e$となってしまい、群$ G$が3つの元からなることに反します。
また、$ ab=b$とすると同様に$ a=e$となってしまいます。したがって、$ ab=e$です。つまり$ a$の逆元は$ b$となり、$ b$の逆元は$ a$です。
逆元はただ一つのみ存在していますので、$ a^2$$ e$にはなりません。また、$ a^2=a$とすると$ a=e$となってしまいやはり$ G$が3元であることに反します。したがって、$ a^2=b$です。 すると、 $ G={e(=a^0),a,a^2}$となり$ a$を生成元とする巡回群であることが分かります。
次項以降で確認するとおり、位数3の群は $ \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$と全て同型となります。

Takashi
平成24年5月27日