この講では合同類に演算( )が定義できることを見ていきましょう。 自然数を固定します。このとき、を法とする2つ合同類 の和 を
このように定義しても矛盾ないことを、つまり、well-definedであることを確認する必要があります。
well-definedとは"矛盾なく定義されている"ということです。
を
と定義しましたが、この右辺が合同類
の代表元の取り方に依存しないことを示す必要があります。
このことをもう少し丁寧にみていきましょう。を法とする合同類を1つとり、それをとおきます。すると、合同類の定義よりはある代表元が存在して
と表されます。同様にもう一つの合同類をとりこの代表元をとすると
と表されます。このとき、を
で定義するのですが、の代表元やの代表元として別の代表元をとってきてもが同じ合同類となるかを確認する必要があります。つまり、がとの代表元の取り方に依存しないことがwell-definedであることになります。
代表元の取り方を代えて のとき、 であるか場合、の定義はの代表元の取り方に依存せずに、well-definedであることになります。これは、命題2.4.4そのものです。よって、well-definedであることが分かりました。
同様に、合同類の差を
ここで、 が定義しました、除算(割り算)はどうでしょうか。次の例をみてみましょう。
このとおり、
は、何をかけても
にならないことが分かります。つまり、
が存在しないことが分かります。
これはなぜでしょうか。うえの式をみると、 のように0でないものどおしをかけて0になることがわかります。 このように、0でないものどおしをかけ算することによって0になるものを零因子(ゼロインシ)といいます。つまり、の世界では、零因子が存在します。(一般的には、零因子は環において定義されます。)
零因子が存在する場合、除算が定義できません。が零因子である、つまり
となる0でないが存在するとします。このとき、が存在するとすると、
ですが、両辺にをかけると、左辺=
となります。一方、右辺=です。これは、となりの定義に矛盾します。したがって、零因子には逆元が定義できないことが分かります。
それでは、除法(割り算)が定義できるのはどのような場合でしょうか。零因子がある場合は除法は定義できないことが分かりましたが、どのような場合に零因子があるのでしょうか。
上の例では、では、零因子は となります。このように、の場合は、の約数は零因子となってしまいます。それでは、約数が(1と自分自身以外に)存在しない場合、つまり、素数の場合はどうでしょうか。
このように、 の世界では、0以外全て逆元をもつ、つまり、割り算が定義できることがわかります。
この定理は素数のとき、では割り算が定義できることを意味しています。
Takashi