2.4.3 合同類の演算

この講では合同類に演算( $ +,-,\times$)が定義できることを見ていきましょう。 自然数$ n$を固定します。このとき、$ n$を法とする2つ合同類 $ \overline{a},\overline{b}$の和 $ \overline{a}+\overline{b}$

$\displaystyle \overline{a}+\overline{b}=\overline{a+b}$

で定義します。 また、 $ \overline{a}$ $ \overline{b}$の積 $ \overline{a}\cdot\overline{b}$

$\displaystyle \overline{a}\cdot\overline{b}=\overline{ab}$

で定義します。

このように定義しても矛盾ないことを、つまり、well-definedであることを確認する必要があります。

well-definedとは"矛盾なく定義されている"ということです。 $ \overline{a}+\overline{b}$ $ \overline{a+b}$と定義しましたが、この右辺が合同類 $ \overline{a},\overline{b}$の代表元の取り方に依存しないことを示す必要があります。

このことをもう少し丁寧にみていきましょう。$ n$を法とする合同類を1つとり、それを$ C$とおきます。すると、合同類の定義より$ C$はある代表元$ a$が存在して $ C=\overline{a}$と表されます。同様にもう一つの合同類$ D$をとりこの代表元を$ b$とすると $ D=\overline{b}$と表されます。このとき、$ C+D$ $ \overline{a+b}$で定義するのですが、$ C$の代表元や$ D$の代表元として別の代表元をとってきても$ C+D$が同じ合同類となるかを確認する必要があります。つまり、$ C+D$$ C$$ D$の代表元の取り方に依存しないことがwell-definedであることになります。

代表元の取り方を代えて $ C=\overline{a}=\overline{a'},D=\overline{b}=\overline{b'}$のとき、 $ \overline{a+b}=\overline{a'+b'}$であるか場合、$ C+D$の定義は$ C,D$の代表元の取り方に依存せずに、well-definedであることになります。これは、命題2.4.4そのものです。よって、well-definedであることが分かりました。

同様に、合同類の差を

$\displaystyle \overline{a}-\overline{b}=\overline{a-b}$

で定義すると、同様の方法でこの定義はwell-definedであることが分かります。

2.4.13
$ n=6$として$ 6$を法とする合同類を考えます。
(1) $ \overline{2}+\overline{3}=\overline{5}$
(2) $ \overline{2}-\overline{3}=\overline{-1}=\overline{5}$
(3) $ \overline{2}\cdot\overline{3}=\overline{6}=\overline{0}$
です。(1)と(2)の右辺が等しくなるのは、 $ 3\equiv -3\pmod 6$であるため $ \overline{3}=\overline{(-3)}$だからです。

ここで、 $ +,-,\times$が定義しました、除算(割り算)はどうでしょうか。次の例をみてみましょう。

2.4.14
$ n=6$とし、法$ 6$の合同類で $ \overline{2}$との積を考えてみます。
・     $ \overline{2}\cdot\overline{0}=\overline{0}$
・     $ \overline{2}\cdot\overline{1}=\overline{2} $
・     $ \overline{2}\cdot\overline{2}=\overline{4}$
・     $ \overline{2}\cdot\overline{3}=\overline{0} $
・     $ \overline{2}\cdot\overline{4}=\overline{2} $
・     $ \overline{2}\cdot\overline{5}=\overline{4} $

このとおり、 $ \overline{2}$は、何をかけても $ \overline{1}$にならないことが分かります。つまり、 $ \overline{1}\div\overline{2}$が存在しないことが分かります。

これはなぜでしょうか。うえの式をみると、 $ \overline{2}\cdot\overline{3}=\overline{6}=\overline{0}$のように0でないものどおしをかけて0になることがわかります。 このように、0でないものどおしをかけ算することによって0になるものを零因子(ゼロインシ)といいます。つまり、$ \mod{6}$の世界では、零因子が存在します。(一般的には、零因子において定義されます。)

定義 2.4.15
$ R$0でない元$ a$に対し、0でない元$ b$ $ a\cdot b=0$となる場合、$ a$零因子(zero divisor)という。

零因子が存在する場合、除算が定義できません。$ a$が零因子である、つまり $ a\times b=0$となる0でない$ b$が存在するとします。このとき、$ a^{-1}$が存在するとすると、 $ a\times a^{-1}=1$ですが、両辺に$ b$をかけると、左辺= $ b\times a\times a^{-1}=0$となります。一方、右辺=$ b$です。これは、$ b=0$となり$ b$の定義に矛盾します。したがって、零因子には逆元が定義できないことが分かります。
それでは、除法(割り算)が定義できるのはどのような場合でしょうか。零因子がある場合は除法は定義できないことが分かりましたが、どのような場合に零因子があるのでしょうか。

上の例では、$ \mod{6}$では、零因子は $ \overline{2}\cdot\overline{3}=\overline{0} $となります。このように、$ \mod{n}$の場合は、$ n$の約数は零因子となってしまいます。それでは、約数が(1と自分自身以外に)存在しない場合、つまり、素数の場合はどうでしょうか。

2.4.16
$ \mod 5$の0以外の元の逆元は次のとおりです。

表: $ \mod 5$の逆元
$ a$ 1 2 3 4
$ a^{-1}$ 1 3 2 4


2.4.17
$ \mod 7$の0以外の元の逆元は次のとおりです。

表: $ \mod 7$の逆元
$ a$ 1 2 3 4 5 6
$ a^{-1}$ 1 4 5 2 3 6


このように、 $ \mod{5}\mod{7}$の世界では、0以外全て逆元をもつ、つまり、割り算が定義できることがわかります。

定理 2.4.18
$ p$を素数とすると、$ p$を法とする0でない合同類 $ \overline{a}$に対し、合同類 $ \overline{b}$が存在して $ \overline{a}\cdot\overline{b}=\overline{1}$とできる。

証明
$ p$は素数であり、 $ a\ne 0\pmod{p}$であるため、$ a,p$は互いに素である。このとき、定理2.1.17より、整数$ n,m$が存在して$ an+pm=1$とできる。
すると、この式の$ \mod{p}$をとると、 $ an\equiv 1\pmod{p}$である。これは、 $ \overline{a}\cdot\overline{n}=\overline{1}$であることを意味している。

この定理は$ p$素数のとき、$ mod p$では割り算が定義できることを意味しています。

Takashi
平成24年5月27日