3.2.2 イデアル

$ G$の正規部分群を$ N$とすると$ G/N$は群となります(準同型定理)。本項では、イデアルを定義しますが、イデアルとは、環における"正規部分群"に対応するものです。イデアルの典型例としては、整数環 $ \mathbb{Z}$におけるイデアルや多項式環のイデアルがあります。

定義 3.2.10
$ R$の部分集合$ I$が次の条件を満たす場合、$ I$イデアル(ideal)という。
(1)$ R$を加法群と考えた場合、$ I$は部分群となる。
(2)任意の$ r\in R$に対し、 $ rI\subset I$

定義 3.2.11
$ R$の元 $ r_1,r_2,\cdots,r_s$に対し、 $ (r_1,r_2,\cdots,r_s)=r_1R+r_2R+\cdots r_sR$とすると、 $ (r_1,r_2,\cdots,r_s)$ $ r_1,r_2,\cdots,r_s$を含む$ R$の最小のイデアルとなり、 $ (r_1,r_2,\cdots,r_s)$ $ r_1,r_2,\cdots,r_s$から生成される(generated)といい、 $ r_1,r_2,\cdots,r_s$生成元(generator)であるという。
また、$ R$のイデアルのうち$ R$の有限個の元により生成されるイデアルを有限生成イデアル(finitely generated ideal$ R$の1元から生成されるイデアルを単項イデアル(principal ideal)という。

整数環 $ \mathbb{Z}$や多項式環 $ \mathrm{K}[\mathrm{X}]$のイデアルは、全て、有限生成イデアルであり、かつ、(生成元が複数である場合はそれらの最大公約数1元を生成元とする)単項イデアルです( 2.1.42.2.6参照)。

$ I$を環$ R$のイデアルとします。このとき、$ R$の2つの元$ r_1,r_2$に対し、 $ r_1-r_2\in I$のとき $ r_1\sim r_2$とすると$ \sim$$ R$同値関係となることが分かります(3.1.6参照)。この同値関係に対する、商集合$ R/I$と記載し、商集合$ R/I$の元のことを剰余類といいます。

$ R$を加群と考えたと$ I$は正規部分群と考えられますが(アーベル群の部分群は常に正規部分群です。)、$ R/I$はこのように考えた場合の商群です。したがって、群となりますが、$ R/I$は環となることがわかります。$ R/I$商環(quotient ring)といいます。

$ R/I$には商群と同様に、次のように演算が定義されます。 $ R/I$の元 $ \overline{r_1},\overline{r_2}$に対し、

$\displaystyle \overline{r_1}+\overline{r_2}=\overline{r_1+r_2}$

$\displaystyle \overline{r_1}\cdot\overline{r_2}=\overline{r_1\cdot r_2}$

念のため、 $ \overline{r_1}\cdot\overline{r_2}=\overline{r_1\cdot r_2}$well-definedを確認してみましょう。(加法については、既に確認しています。)

well-definedであることとは、上の演算が剰余類 $ \overline{r_1},\overline{r_2}$の代表元の取り方に依らないことを示すことです。ここで、 $ \overline{r_1}=\overline{r'_1},\overline{r_2}=\overline{r'_2}$とすると、剰余類の定義より $ r_1=r'_1+i_1,r_2=r'_2+i_2,(i_1,i_2\in I)$と分かります。すると、 $ r_1\cdot r_2=r'_1\cdot r'_2+(Iの元)$となります。したがって、 $ \overline{r_1\cdot r_2}=\overline{r'_1\cdot r'_2}$である。よって、 $ \overline{r_1}\cdot\overline{r_2}=\overline{r_1\cdot r_2}$は、剰余類の代表元の取り方に依らずwell-definedであることが分かりました。このように、$ R/I$には$ R$の演算から自然に演算が導入されることが分かります。

定理 3.2.12
$ R$を環$ I$$ R$のイデアルとすると、$ R/I$は環となる。

Takashi
平成24年5月27日