群の正規部分群をとするとは群となります(準同型定理)。本項では、イデアルを定義しますが、イデアルとは、環における"正規部分群"に対応するものです。イデアルの典型例としては、整数環 におけるイデアルや多項式環のイデアルがあります。
整数環 や多項式環 のイデアルは、全て、有限生成イデアルであり、かつ、(生成元が複数である場合はそれらの最大公約数1元を生成元とする)単項イデアルです( 2.1.4、2.2.6参照)。
を環のイデアルとします。このとき、の2つの元に対し、 のとき とするとはの同値関係となることが分かります(3.1.6参照)。この同値関係に対する、商集合をと記載し、商集合の元のことを剰余類といいます。
を加群と考えたとは正規部分群と考えられますが(アーベル群の部分群は常に正規部分群です。)、はこのように考えた場合の商群です。したがって、群となりますが、は環となることがわかります。を商環(quotient ring)といいます。
には商群と同様に、次のように演算が定義されます。 の元 に対し、
念のため、 のwell-definedを確認してみましょう。(加法については、既に確認しています。)
well-definedであることとは、上の演算が剰余類 の代表元の取り方に依らないことを示すことです。ここで、 とすると、剰余類の定義より と分かります。すると、 となります。したがって、 である。よって、 は、剰余類の代表元の取り方に依らずwell-definedであることが分かりました。このように、にはの演算から自然に演算が導入されることが分かります。
Takashi